[読書覚書]『ユナボマー 爆弾魔の狂気 (著・タイム誌編集記者)』

  • 内容としては、米国においておよそ18年間にわたって大学関係者 (University) や航空関係者 (Airline) を標的とした爆弾魔 (Bomber)、ユナボマー (Unabomber)」というひとりのアメリカ人、セオドア・カジンスキーの真の正体に迫ったものではなく、ユナボマーの引き起こした一連の事件が周辺の証言によって語られていくものである。
  • 著者が「タイム誌の記者」となっていることからもわかる通り、この本には一冊を通じて「ユナボマー」という人物について報道機関側からのバイアスが一定程度かかっており、「爆弾魔の狂気」も一般大衆向けに歪められているように個人的には感じられた。
  • よって、邦題の『ユナボマー 爆弾魔の狂気』という文面を見て取って、「ユナボマーについて理解したい」などといった気持ちで読み始めても、セオドア・カジンスキー(通称:テッド)について純粋に理解することは本文だけでは難しい。
  • 年代的にも、これは1996年(逮捕から一ヶ月しか経っていない)にまとめられたものなので、人物に迫るというよりかは、詳細な事件年表といったほうが実態に近いかもしれない。
  • ちなみに、一連の事件については公判が開かれず司法取引による終身刑という形で終わっているため、テッドの犯行動機は未だもってしても個人個人のレベルで類推するしかない。
  • もちろん本文内においても心理学者や関係者によってユナボマーに関する所見が述べられてはいるのだが、こういった人間たちから発せられたテッドに対する理解のようなものは、彼自身にとっても本意ではないように感じられる。
  • 本の最後には、当時ワシントン・ポスト紙に公表されたテッドの思想や主義主張をまとめたもの、『産業社会とその未来』(これは一般的にはユナボマーマニフェストと呼ばれる)がまるで付属品のようにくっついているのだが、彼の内面について理解したいのならむしろこれが本体で、本文はむしろ付録となっている。
  • ユナボマーマニフェスト232の項目と36の脚注から構成されている。
  • 文章量としては膨大で、これをすべて読み解くのはちょっと至難の業である。心理学的な見地からは非常に興味深く、ざっと目を通した限りでは、どのような種類の人間でも、少なくともひとつくらいは心から共感できる項目が見つかるだろうと思う。
  • しかしながら、政治学や社会学側等から見れば、おそらくかなり退屈なものとなるだろう。ユナボマーマニフェストは、あくまで「極限まで孤立した人間が屈折した政治信条を孤独というプリズムのなかで乱反射させたものを爆発的に濃縮させた論文のようなもの」であり、もちろんすべてが正しいわけではない。
  • そして言うまでもなく、すべてが間違っているわけでもない。
  • ユナボマーのような存在を作り出した政治や社会――といった包括的・メタ的な政治学・社会学的な見地から考えてみると、若干の面白さを感じるかもしれない。
  • ユナボマーは「ユナボマー」という文脈において全面的に正しく、完全に自己完結した人間であり、それゆえの「存在としての危うさ」が論文からは感じられる。
  • 個人的には、「過剰社会化」もしくは「過剰社会化された人々」という概念が最も興味深かった。
  • それはなぜなら、わたしがそれが正しいと思っているからではなく、テッドという人格を形成するにあたって、おそらくこの概念こそがいちばん根底にある論理なのではないかと思えるからだ。
  • 「過剰社会化」というのは、わたし個人の言葉であえて意訳する必要があるのなら、『世界の構造が「社会的であること」を善として選択しており、そういった「社会全体にとって喜ばしいこと」を要求するような同調圧力が存在している、あるいは「社会福祉一般にとって喜ばしくないこと」を排斥するようなある種の必然性を帯びた要求があり、それに対して過剰に反応してしまう人間が存在する』といった主張だ。
  • テッドはもともとが数学者なので、定義があまりにも厳密すぎて理解しづらい場面が多々あるが、これはすなわち「道徳的であろうとする社会的な圧力」と言い換えることもできる。
  • しかしながら、人間は必ずどこかで社会に背くような行動をする。パーフェクトに道徳的な存在など神以外にはあり得ないのだ。このような要求に過剰に適応しようとする人間は、自己肯定感が極限まで低下し、自分自身を恥ずかしい人間だと認識してしまう――テッドはそう警鐘を鳴らした。
  • そしてテッドは、おそらく自分自身を「過剰社会的」だと考えていたのではないだろうかと思われる。
  • 論文全体としては「テクノロジー批判論」であると言えるのだが、その一言に丸め込んでしまうのは、おそらくテッド的には本意ではないだろうと察する。
  • テッドは方法として間違っていただけで、ユナボマーマニフェストに書き込まれているような内容を、極めて合法的に、言語を使用した「爆弾」として作り込み、雑誌に投下しているような人間は、現代を見渡しても未だに存在しているように思われる。
  • テッドは人種差別問題についても総体的な問題点として述べているが、わたしは彼を政治的な文脈で理解したくなかったし、大学では音楽・スポーツ・ファッションなどのカルチャー的な側面から米国における移民の扱いについて学んだものの、純粋なアメリカ人でもないので、昨今の情勢を鑑みても詳細な言及は避けたい。
  • 翻訳された文章としては比較的に読みやすい部類だろうと思われる。
  • 面白さ:★★★☆☆

 

ユナボマー 爆弾魔の狂気―FBI史上最長十八年間、全米を恐怖に陥れた男

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