20141115

 妄想に逃げることしかできない谷沢の最近のマイブームは、「脱出不可能な箱のなかに人間を閉じ込めて、紙とペンだけを与えたらどうなるのか」という思考実験を行うことだ。いま目の前に座っているこの人は、いったいどういう行動を取るのか――そういうことについて考える。たぶん、多くの人は言葉を書くと思う。閉じ込められて、孤独感を覚えて、不安になっているとか、きっとそういう現在の気持ちを書き綴る。谷沢はそんなことを勝手に思っている。危ない人です。もしかしたら、絵を描く人もいるかもしれない。ただ一心不乱に鉛筆をすり減らして、一枚の白紙を黒に塗り潰そうとしている人間がいるとしたら、狂っているとしか言いようがない。たまに紙ではなく、床や壁や天井に何かを書き始める人がいる。ペンを投げ捨てて、折り紙を始める人なんかがいる。そういう人とは良い友達になれそうだ。しかしながら、目下、友達なんてものはいない。「なにをかんがえているの?」と不意に問われる。マグカップを包み込むようにして手のひらに収めて、わずかながら暖を取っている。珈琲からは湯気が立ち上っている。なにもかんがえてなんかいない。ぼくはぼくという脱出不可能な箱のなかで、紙とペンだけを使って空白を描いている。この文章もまた、そういった紙切れのなかの一枚に過ぎない。ざんねんですね、本当に。なにもかもが、こうして、消えていくということが。